コラム5 カミングアウトについて

ある日、あるバーに行ったんだけど、お客が15人ぐらいいたかな、「あの子、やりまくってて、生でもやってるみたい」「絶対HIVよ。信じられない!」っていう発言がマスターから出たんです。自分はプチってキレて、「その人がHIVかなんてわからない、決めつけですよね。お店の仕事って、お客さんを安心させたり楽しませること。このご時世でこれだけ陽性者がいることは知ってて、店の人が『信じられない』なんて言ってどうするの?もしもお客さんの中に陽性の人がいたらショックを受けてるよ」って言っちゃったんです。そしてマスターをカウンターのすみへ呼んで、耳元で言いました、「僕、HIVなんだ」って。

そこでピタって彼の会話が止まりましたよね。自分は30分ぐらいその場にいて、その日はかえって、その後は4、5回行きましたかね。でも、それ以来、彼はHIVのことは聞いてこないし、僕がいるあいだはそんな話題も出さない。アンタッチャブルになってしまって、それもまずいかな、と思ってるんだけど……。 それから仕事が忙しく、その店には最近ご無沙汰してるんですが、マスター、あれから何か考えてくれたかなあ……。
[ K ]の体験


打ち明ける場所、とき、ひと

これまでにみてきたように、すでに感染がわかって生きている人はたくさんいる。また感染しているけれども、その事実を知らないで生活している人も多くいる。そうであるはずなのに、例えばゲイバーで、HIV陽性者がいないものとして扱われることで傷つき、そこから足が遠のいてしまう人がいる。その一方で、HIVに感染して最初にバーのスタッフにそのことを伝えている人もいる。

私たちが暮らしている街の様々な場所で、HIVに関することにふれる機会がある。それは必ずしもセックスにまつわる場面だけではない。友達のことだったり、元彼のことだったり、行きつけの場所のスタッフのことだったり、あるいは自分自身のことだったりする。自分たち一人ひとりにとって、とても身近なことでもある。少しずつ、このことについて話し合えたらいいなと思う。一人ひとりが自分のペースでできる一歩から、誰もが住みやすい街が広がっていくのではないだろうか。